鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り手術
鼠径ヘルニア(脱腸)とは

ソケイ(鼠径)とは、太ももや足の付け根の部分を指します。
ヘルニアとは、ラテン語で、その意味は
体内の臓器が、あるべき部位から逸脱した状態です。
つまり鼠径ヘルニアとは、本来ならお腹の中にあるべき腹膜や腸の一部が、ソケイ部の筋膜の間から、皮膚の下に出てくる病気です。腸が出てくることが多いので、世間では脱腸と呼ばれることもあります。


こどもでは先天性のものがほとんどですが、大人の場合は、ももの付け根の筋膜が弱くなる40歳以上の中年以上の、特に60歳前後の男性に多く見られます。
女性は男性に比べて少ないです。
また下腹部に力がかかる、例えば立ち仕事をしている人、便秘症・肥満気味の人、よく咳をする人にも多い傾向があります。
鼠径ヘルニアはよくみられる一般的な病気です。
年間14万~16万人の方が治療を受けているとされています。
鼠径ヘルニアの症状

初期のころは、立った時やお腹に力を入れた時に鼠径部の皮膚の下に腹膜や腸の一部などが出てきて柔らかいはれができますが、普通は指で押さえると引っ込みます。
次第に小腸などの臓器が出てくるので不快感や痛みを伴ってきます。 はれが急に硬くなったり、膨れた部分が押さえても引っ込まなくなることがあり、おなかが痛くなったり吐いたりします。
これをヘルニアのカントン(嵌頓)といい、急いで手術をしなければ、命にかかわることになります。

鼠径ヘルニアの原因
ソケイ部にはお腹と外をつなぐ筒状の管(そけい管)があります。
男性では睾丸へ行く血管や精管(精子を運ぶ管)が、女性では子宮を支える靱帯(じんたい)が通っています。
年をとってきて筋膜が衰えてくるとソケイ管の入り口が緩んできます。
お腹に力を入れた時などに筋膜が緩んで出来た入り口の隙間から腹膜が出てくるようになり、次第に袋状に伸びてソケイ管内を通り脱出します。
いったんできた袋はなくならず、お腹に力を入れるとヘルニアのうの中に腸などが出てくるようになります。
これを外鼠径ヘルニアといいます。
腹壁には弱い場所があり、年をとってきて筋肉が衰えてくるとここを直接、押し上げるようにして腹膜がそこから袋状に伸びて途中からそけい管内に脱出します。
これを内鼠径ヘルニアといいます。
ソケイ部の下側がふくらみ、大腿静脈のわきから脱出します。
これを大腿ヘルニアといいます。多産で高齢の女性に多いのが特徴です。

鼠径ヘルニアの治療

鼠径ヘルニアは自然には治りません
手術が唯一の治療法です。
しかし、カントンを起こす前に手術すれば比較的簡単に治ります。
当院では入院せずに、日帰りで手術が可能です
クーゲル法、ダイレクトクーゲル法、メッシュプラグ法を主に行っています。
この方法は、再発の少ない(1%以下)手術法で、近年普及しています。 ポリプロピレン製のメッシュで、弱った部分を補強し、腸などが出てくるのを防ぐ手術法です。
体の組織に過度の緊張がかからない為、術後の突っ張り感がすくなく、従来の手術法に比べ、手術時間が短く(30~60分)すみます。
また創の大きさは約3cm~4cmです。

術後の傷の痛みも軽くてすみます。
当院では、手術創は生体用瞬間接着剤で閉鎖しているため、

痛みもさらに少なくなります。
抜糸の必要もないため、翌朝からシャワーが可能です。
術後は歩いて回復室まで移動していただきます
2時間ほど経過観察したのち、異常がなければ、付き添いの方と帰宅していただけます。
鼠径ヘルニア術後の合併症
- 感染:創部が赤く腫れて、膿がたまった状態
- 約1%の頻度で起こります。
抗生物質を投与し、膿を出しても治らない場合、メッシュ除去手術が必要になることがあります。 - 慢性疼痛
- メッシュを固定する際、神経を巻き込んだ場合に生じることがあります。
治療としては、神経ブロックがありますが、改善なければ、再手術が必要な場合があります。 - 漿液腫
- 創部皮下に組織液がたまった状態です。再発ではありません。 ヘルニアが大きく、癒着がある場合に認めることがあります。時間がたてば自然吸収されますが、違和感が強く認められるときは針を刺して液体を除去します。
- 皮下出血
- 創部周囲が出血のため紫色に変化します。多くは自然吸収されます。
- 再発
- メッシュを使った手術では1%以下といわれています。おなかに力が入り、メッシュがずれたこと、加齢や喫煙で組織が弱くなったことが原因として挙げられます。再手術が必要です。
当院での鼠径ヘルニア手術のながれ
- 外来診察
- 立位で腹部に力を入れた時に、あしの付け根あたりにふくらみがあるかどうかを診ます。
- エコー検査
- ヘルニアのう(ふくらみ)に腸管や脂肪がはいっているのを確認します。
- ヘルニアと診断された場合
- 腸管がはまりこんで(嵌頓)なければ、緊急性はありません。
疼痛や違和感などで、生活に困るような自覚症状を有する方が手術の対象になります。
- 術前検査
- 手術を希望された方は、手術日を決定した上、血液検査、心電図、呼吸機能検査など検査を行います。
- 再診・手術説明
- 術前検査結果と手術の説明を行います。
- 手術当日
- 手術当日の朝食は食べないでください。
- 麻酔
- 術衣に着替えた後、手術室で手術部位にマジックでマークをつけ、
細い針で局所麻酔を行います。
手術台で仰向けになり、酸素マスクやモニターを装着し静脈麻酔(全身麻酔)を行います。 麻酔の導入は10~15分です。
- 手術
- 手術時間は30~60分です。手術終了後、すぐに麻酔から覚めます。
- 手術後の安静
- 手術後は回復室で休んで頂きます。定期的に血圧などチェックします。
術後約1時間で、水分・食事をとり、トイレ歩行ができます。
術後約2時間で、創部や全身に問題なければ帰宅できます。
- 帰宅後
- 翌朝まで自宅安静が望ましいです。
- 手術翌日
- 朝7時30分~8時30分に電話診察を行います。 シャワー可能です。
- 術後1週間まで
- 創部の確認を行います。
- 術後3~4週間
- 3~4週間後に診察、問題が無ければ終診となります。
日帰り手術の適応
- 患者さんが日帰り手術を理解し、また希望していること
- 医師、看護師の勧めで患者さんが納得・協力的であること
- 生活自立上大きな問題がなく、介助や介護が最小限であること
- 手術後の合併症が最小限であることが予測されること
- 通院の際の交通手段に支障がないこと
手術の手順
手術適応
疼痛や違和感などで、生活に困るような自覚症状を有する方。
麻酔法
【1】局所麻酔を手術部位に注射します。
【2】点滴で眠くなる静脈麻酔(全身麻酔)を行います。同時に酸素マスクを装着します
【3】痛みを感じることなく、手術を受けることができます。
【4】手術が終わると、すぐに目が覚めるのでご安心ください。
手術方法
ヘルニアの状態に応じて、クーゲル法、ダイレクトクーゲル法、メッシュプラグ法で行います。
【1】鼠径部に3~4cm横に皮膚を切開します。
【2】脂肪組織を切開し、神経を傷つけないように筋肉を切開します。
【3】精策構造物にテープを通します。
【4】ヘルニアの状態を確認し、最適な手術法(クーゲルorダイレクトクーゲルorメッシュプラグ)を選択します。
【5】手術創は生体用瞬間接着剤で閉鎖し、手術を終了します。
クーゲル法
クーゲル法はポリプロピレン製のメッシュで、弱った部分を補強し、腸等が出てくるのを防ぐ手術法です。

ダイレクトクーゲル法
ダイレクトクーゲル法はポリプロピレン製のメッシュで、弱った部分を補強し、腸などが出てくるのを防ぐ手術法です。

メッシュプラグ法
メッシュプラグ法はポリプロピレン製の傘状のプラグ(栓)を、小腸などが出てくる筋膜の弱い部分に入れて腸などが出てくるのを防ぎます。

術後の経過
- 術後は回復室で点滴しながら安静にしていただきます。
- 術後、定期的に血圧や呼吸状態の確認を行います。
- 術後1時間で食事、トイレ歩行していただきます。
- 術後2時間で創部の出血など問題なければ帰宅できます。
- 翌日には家事や買物、シャワーが可能です。
- 翌日からデスクワークは可能ですが、術後数日は自宅療養が望ましいです。
- 内服鎮痛剤や鎮痛座薬を適宜使用していただきます。
- 術後1週目に一度通院していただきます。
- 術後3~4週目に再診、創部の状態をみて終了となります。
- 抜糸は不要です。
術後3週間目までに注意すべきこと
- 体を強く折り曲げたりしない。
- 重いものをもたない。
- 強いせきをしない。
- 排便のときにいきまない。
料金
保険が適用されます。
手術・麻酔費用は1割負担の方:1~2万円、3割負担の方:5~6万円です。
総支払費用は、術前検査、術後通院費用などを合わせると、
1割負担の方:2~3万円、3割負担の方:7~8万円です。
但し、術前術後の病状によって、追加検査、追加通院が必要になった場合、総支払金額が増えることもあります。
その他
初診時に鼠径ヘルニアが疑われた際、超音波検査を行います。
鼠径ヘルニアと診断し、手術が決定した場合、手術日の一週間以上前に、血液検査・心電図検査・呼吸機能検査などを行い、手術や麻酔のリスク評価を行います。
もし心臓や肺などに大きな異常を認めた場合、提携病院で専門医の診察を受けていただき、手術可能か検討することがあります。
なお、当院では安全のために、初診当日に手術をすることはありません。
手術日は【月】、【火】、【木】、【金】、【土】です。